「山麓園太郎です。サワディーカップ。」と初めてラジオで言ったのは2015年でした。
FM豊橋(現・やしの実FM)の超マニアックな深夜番組「ステップ・アクロス・ザ・ボーダー」(毎週土曜日深夜0:30~)からお声がかかって、タイポップスを4週連続でかける企画があったんです。それがちょっと話題になって今度は音楽評論家の小川真一さんに呼ばれて「ラビット・アワー」(毎週木曜午後6時)でタイポップスかけて。
僕は単なる旅好き音楽好きで、「タワレコには置いてない海外の面白い音楽を現地で買ってきて番組でかける人」だけのつもりでいましたが、5年が過ぎ、僕は「タイポップス探検家」として凄く一部から熱狂的に支持されたり(笑)、日本とタイを繋げるあれこれをちょっとだけお手伝いするようになりました。
でも一番変わったのは僕ではなく、「タイポップスのCDが日本でも時々出るようになった」ことです。「タワレコにも置いてある」ようになったんです。嬉しい・・・。
そのラインアップに新たに加わる1枚「ベスト・オブ・シンディ・スイ」(2020年3月18日発売)は、僕が企画を出して選曲まで関わったものですが、サンプル盤が到着しました。
「タイポップス」という枠に収まらず、これはもうシティ・ポップやダンスミュージック、果てはチップチューンやゲーム音楽ファンにまで届け!と願わずにはいられないナイスなCDなんですが、商品仕様をご説明しますね。
そしてブックレットには全曲の歌詞が!日本にお住まいのタイの皆さんが一緒に歌えるようになっております(他に英語や日本語の曲もあります。 歌詞対訳は掲載していません)。日本限定リリースではあるんですが、実はタイ本国からも輸入盤として受注が入っているそうで、タイにお住まいのタイの皆さん(笑)にも一緒に歌って欲しいですね。タイ以外の海外の人にもね。
さて、リリースにあたってシンディ・スイ本人から、オリジナルを収録の過去アルバム4作と自身のレーベルについてコメントを頂きましたのでご紹介します。気になったらそれぞれのアルバムも聴いてみてくださいね。
Micro Bitz Life (2005)
「多種多様な電子音楽を作りたい」という私の長年の夢から生まれたのがこのアルバムです。2000年代初頭によく聴いたフレンチ・エレクトロ、渋谷系、ブラジルのエレクトロ、フューチャーファンク、ジャーマン・ミニマル、チップチューン、シンセポップ等にヒントを得て沢山の曲を書きました。自分のデビューアルバムはバラエティに富み、カラフルなイメージのものにしたいと考えていました。それでいきなり「全20曲・LPレコード2枚組」という形になりましたが(笑)。当時の電子音楽シーンでは画期的なアルバムでした。
My Name Is DOS (2007)
最初のアルバムを出した後で大きな転換点がありました。師匠であるRungroche Uptampotiwat (smallroomレーベルの創立者。自身も「Crub」という、時代を10年先取りしていたと後に評された伝説的なバンドのベーシストだった)から「歌ものをやるべきだ」と言われたんです。それまでインスト主体でやってきた自分には挑戦でした。歌唱法やメロディの作曲法を学ぶ為に誰が参考になるか、しばらく時間がかかりましたが、やがて自然と自分がソウル・ミュージックに惹かれるのに気づきました。影響を受けたのはマイケル・ジャクソン、スティービー・ワンダー、プリンス、そしてモータウン・サウンドです。新しい音楽探訪の旅の始まりというわけです(笑)。これによってそれまでの自分がやってきた電子音楽に更に「歌」の要素を加えられるようになったので、素晴らしい知識と経験を得たと思います。歌詞が付くことでリスナーともっとコミュニケーションを取れる、という新鮮な感覚でした。作詞家との共同作業でこのアルバムは完成しました。タイのラジオ局「Fat Radio(現在のCat Radio)」で年間最優秀アルバムに選ばれましたが、タイのインディーシーンだけではなく海外でも大成功を収めました。
こぼれ話
Kitsch Cat music label (2008-)
その後、私は仲間であるYuri’s Nominee(ClubPopp)とGramaphone Children、Stargazersと共に自分たちのレーベルを設立し、コンピレーションアルバムのリリースを通して様々なアイデアや創作を形にしていきました。私はこのレーベルで沢山のアーティストをプロデュースし、時には助け合い、Miami Horrorなど海外のアーティストのためのリミックスワークを楽しんでいます。
Toy Boy (2014)
そしてKitsch Catからコンピレーションだけではなく個人のアルバムも出す時期がそろそろやってきたと感じました。前作をsmallroomからリリースしてからずいぶん間が空いています。ですから特別なものになるように、CDとLPレコードの両方でリリースする計画を立て、ディスコ、ブギーファンク、シンセポップのvibeを強く出した「エネルギーに溢れた、踊れるアルバム」にしようと思いました。このアルバムからも3曲の大ヒットが出ました。
Summer FM (2017)
アルバム「Toy Boy」を発表した後で、インスト曲やスムーズでグルーヴィーなvibeが本当に恋しくなり、自身のルーツに立ち返ってみようと考えました。このアルバムには、ダウンテンポ、モダンファンク、ダンスディスコ、モダンブギーの影響が混在しています。販路が限定で制作枚数も少なかったので、幻のアイテムになっています。
こんな数々の名盤から選び抜いた、1曲目からハッピーがありあまる、踊れるアルバムに仕上がった「ベスト・オブ・シンディ・スイ」。ぜひ店頭で現物を手に取って欲しいと思うんですが、最後に制作完了間際に起きたハプニングをこっそりご報告します。
僕は選曲作業にあたり、自分が所有しているCDから収録曲を選んでいったんですが、マスター音源がシンディから届き、プレス工場に納品されたと聞いてからタイに出かけ、BNK48の握手会に参加したりしてたんです。で、帰国してシンディからのファイルを確認していたら何かがおかしい。
4曲目の「FLIP」の所に違う曲が入っているんです。
慌ててレーベルに連絡したけれど、既に印刷物もCDプレスもラインが動いちゃってて今更直せない!一瞬「回収か?発売延期か?」と焦りましたが更に何かがおかしい。シンディから「間違いないよ~、大丈夫」という返事が返ってくるんです。
彼が音源を公開しているBandcampに行って謎が解けました。僕が「FLIP」だと思ってた曲は「FLIP」じゃなかった。手元にあるCDのbpm表記を見て床に崩れ落ちました。
オリジナルCDではこの2曲が、間違いで入れ替わって逆に収録されているんです!
そこからかよ!(怒)
タイでは追加プレスを殆どせず、最初にドーン!と作って売り切って終わり、なんですね。だから「収録順間違えたけど、もうプレスしちゃったからみんな気にすんな。売っちゃえ~」ってことになったんでしょうか。2005年のことだからもう分かんないけど!
僕が「FLIP」だと思って選曲したのは実は「SOGO」だったけど、リストには曲名だけを書いてシンディに送ったから結論として「今工場で作ってるCDについては内容にも印刷物にも一切の間違いはない」というハッピーエンドになりました。偶然にもこの2曲、どちらもインスト曲だし雰囲気もbpmもよく似ていたんです。
そんなわけで、「SOGO」という曲は「ベストアルバムに収録されるはずだった曲」として、僕の頭の中にだけ鳴っているんです。気になった方だけでいいんですけど、ベストアルバム買ってもらった後で4曲目だけこれと入れ替えて聴いてみてくださいな。少しだけアルバム全体の印象が変わると思いますので・・・。
「Best Of Cyndi Seui」、一人でも多くの皆さんの耳に届くといいなと思っています。どうぞよろしくお願いします!
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