山麓園太郎です。サワディーカップ。
2022年の仕事始めがいきなり「アジア都市音楽ディスクガイド」コラム執筆と日本テレビ「スッキリ」出演という、光栄なんだけど僕なんかが出てすみませんホントに、という事態で、ずっとタイのシティ・ポップを紹介してきた身としては嬉しい反面、僕イコール「シティ・ポップ関連の人」みたいなイメージが独り歩きするのはちょっとなぁ、と思って。だってそんなに偉くないです。僕、語彙と教養と運動神経には昔から恵まれてないんで。
それで久しぶりにアフター6ジャンクション(以下「アトロク」)から出演の打診があった時に、「シティ・ポップ以外のネタでやらせてもらって自分の中でバランス取ろう。そうだアイドルなんかいいぞ。きっと気楽に出来るぞ」なんて思って企画出したら通っちゃって、始めてみたら気楽に出来るどころか3倍苦労した、という話を今回はします(笑)。
25年の歴史を3曲でたどる、という無謀
BNK48含む現在のタイのアイドルをただ並べるだけではつまらないから歴史を解説しよう、と決めたものの、タイのアイドルレーベルはDOJO CITY/RS Kamikaze/GMM Grammyのアイドル部門の3つだけでも1998年から現在までの約25年にまたがっています。FEVER関連のトピックで冒頭の10分は使う事が決まっていたので、残り30分で歴史も辿りながら最新のアイドルまで紹介?無理だ(笑)。各レーベル1曲しかかけられない。物凄いアンセム的な大ヒットでもない限り1990年代/2000年代/2010年代を3曲で代表させるなんて無茶もいいとこですが、そこはもう開き直りました。SONY系レーベルも割愛。
Project H 「ตอให ่ ้ใครไมร่ ัก(誰かが愛していなくても)」(2000)
設立メンバーが海外留学中よく通ったニューヨークの和食レストラン「DOJO」から名付けられたDOJO CITYレーベルは1998年設立。それまでタイには10代前半向けの音楽マーケットがなく、レーベル自らがティーンズ向け雑誌「Katch Magazine」を創刊してレーベルの女の子たちをモデルに使う、という手法で効果的にタイの10代にアプローチしたのです。
レーベルで一番の成功を収めたのはTriumphs Kingdomでしょう。番組でかけたProject Hの曲のモータウン風のテイストは珍しい例で、多くはTriumphs Kingdomのこの曲「Don’t Get Me Wrong」のような、90年代に流行した当時最新のサウンドでした。
Katch Magazineのデザインは日本のティーンズ雑誌にインスパイアされた部分が多かったそうです。「CUTiE」や「Popteen」辺りかな?と僕は想像してますが。当然そこから取り入れられた90年代後半の日本のアイドルたちのファッションもタイで流行しました。当時の安室奈美恵やSPEED、モーニング娘。や鈴木あみ(現・鈴木亜美)のファッションを思い出してもらえれば同時代感が分かると思います。
こういうキャミソールやショートパンツファッションは当時のタイでは「はしたない」程の露出度の高さでしたが、着ている女の子たちの年齢が低いがゆえのエロくなり過ぎない絶妙なイノセント感があり、ティーンズに支持されたのだと思います。DOJO CITYに在籍し「Niece」というユニットで活動していたKi Kiratraに当時の話を聞いてみました。
山麓:DOJO CITYの女の子たちはタイの女の子のライフスタイルを変えたと言われていますが?
Ki : はい、私たちDOJO CITYの女の子たちはティーンエイジャーにファッション面で多くの影響を与えました。みんなが私たちの服装とメイクを真似し始めたんです。当時サイアムスクエアで誰もが同じような服を着て歩いているのを見るのはちょっと面白かったです。凄い厚底靴とプリクラも大流行しました。
山麓:あなたがDOJO CITYに在籍していた時、Katch Magazineとレーベルの音楽に日本的なものを感じましたか?
Ki : Katch MagazineとDOJO CITYの音楽が多くの要素で日本のアイドル文化の影響を受けているのは明らかでした。そのすべてを体験できたのは楽しかったです。覚えている事すべてがとても色鮮やかな思い出になっています。
Neko Jump「ห้ามนอนคนเดียว (ひとりで寝ないで)」(2010)
生放送中から申し訳ないなー、と思っていたのはKamikazeレーベルの紹介についてです。男性アイドルも擁して、ひと時代築いた、今も続くレーベルをたった1曲でさらっと流すという扱いの雑さ。しかもこのNeko Jumpはレーベルの一番人気で、2009年には日本でCDデビューも果たしているし(僕も2015年のタイフェスティバル東京会場でステージを見ています)、当時タイに住んでいらした日本人の方も含めてリアルタイムで応援していたファンが沢山いらっしゃるんです。しかし番組進行が既に押していたためそのあたりの情報を全くお伝えする事なく次の曲に行っちゃった。ファンの皆さんホントにごめんなさい!
韓国にも進出しつつ、日本では「タイから来たアキバ系アイドル」として紹介されたり、タイ本国では大人っぽいグラビアを披露したり、と全方位的な活躍をした凄いアイドルでした。ぜひSpotifyで!
BGMで流れたのは同じくKamikazeレーベルのFaye Fang Kaew (FFK)の「Blinded」。こちらも人気グループでした。
せっかくなのでKamikazeの男性アイドルも紹介しておきますね。Timethai君の2013年の曲「Spy」。
細身イケメンでダンスもキレッキレ。童顔の好青年に見えますがこの時彼はまだ高校2年生です。
Sound Cream「ดึกเเลว้ (It’s Late)」(2017)
GMM Grammyの紹介もKamikaze同様悩ましい・・・かと思いきや、選曲には一切迷いませんでした。数あるGMMのアイドルの中で僕の神推しがSound Creamで、中でもYouTubeのサムネイルで一番右側のLukgelちゃんが今も大好きだからです。日本に仕事で来て、隣町に滞在中だって知った時は仕事休んで会いに行こうかと思ったくらい。
Sound Creamはもう存在しないけどね。
Lukgelちゃんは結婚して、もうすぐママになるけどね。
放送では「GMMは歌やダンスや演技のレッスンに加えて、時には語学留学までさせてマルチタレントを育てる」という話をしました。日本のジャニーズに近いですよね。その「若い才能に賭ける姿勢」がSound Creamのようなアイドルや、現在のタイドラマ人気を牽引する多くの俳優さんを生んだ理由でしょう。
ここまでで歴史の時間は終了。終盤にBGMで紹介したのはBNK48の二期生Pandaの自作曲です。
「プロの監修のもと、メンバーに自作曲を発表させてみる」という企画。多くのメンバーの曲がギターやベースでの弾き語りに他の楽器を加えてゆくスタイルだった中、PandaはノートPCを使ったDTM。作詞作曲ともにキャッチーなフックがあり、「この子こんな才能があったのか!」と驚いた1曲でした。エレクトリック・ギターのクレジットが不明なんですが、音色からするとこの「Indy Camp Project」の監修者の1人であるLa Ong FongのMan氏じゃないかな?と僕は想像しています。
日本とタイのラウド系アイドルが共演したらきっと楽しい
AKIRA-KURØ「CYBERBULLYiNG」(2019)
宇多丸さんも日比麻音子さんもアトロクリスナーの皆さんも驚いたタイのラウド系地下アイドル!グループ名の「明黒」は、ブラックライトのイメージと、そして「全てのものには光と闇のふたつの面がある。私たちアイドルにも」という意味が込められています。結成時のオーディションを15人が通過したけれどデビュー前に3人が辞退、12人でデビュー。その後もメンバーの入れ替わりが激しく、放送の時点では一期生3人(FERYN、NACCHII、PUNCH)、二期生3人(BETHY、MELA、MI-NE)の6人で活動しています。この曲で皆さんが驚愕したデスボイスを担当していたiYMは2021年末にソロで活動するため脱退しましたが、もともとこのパートはメンバー間で引き継がれてきたもので、現在は誰が彼女のパートを担当するのかまだ決まっていないそうです。
日本人には一番わかりやすい比較対象としてBABYMETALを引き合いに出しましたが、リスナーのラウド系アイドルのファンの皆さんはPassCodeにより近いムードを感じていたようです。
そのPassCodeのプロデューサーが関わったタイのアイドルDEADKATも放送直前の2月14日にデビューしていますし、AKIRA KURØの制作チームはもうひとつ、「DARUMA」というラウド系アイドルも手がけています。いつかPassCodeと彼女たちの共演が日本で見られたら素晴らしいですね。
録音芸術としてのアイドルソングとリップシンク事情
さて、アトロクを聴いてタイのアイドルが気になり、YouTubeでライブ映像等を見た方の中には「あれ?音源と比べてライブでは歌があんまり・・・」なんて感想を抱く方もいるかもしれません。
タイではリップシンクが一般的ではありません。基本生歌です。マイクを持っての激しい振り付けで、身体にマイクが当たって大きなノイズを出したり、後半息が上がっちゃってロングトーンが続かなくなったり、会場のモニターが調子悪くて(タイあるあるです)オケがよく聴こえず、歌い出しが遅れた/音程が取れなかった、なんていう事は日常的に起きています。
特に屋外の会場では35度に達する気温と高い湿度の中でライブが行なわれている、という点も映像からは伝わりにくい部分です。日本のアイドルなら3曲目で全員倒れちゃうくらいの過酷な環境です。
もちろん音源とライブにあまりギャップが無いのが望ましいですが、70年も昔のモダンジャズのレコーディングのようなスタジオでの一発録りの時代は過ぎ、現在は全てがコンピューター上の編集と切り貼りで成り立っています。
逆に言えば「かいしんの いちげき!」のような奇跡の瞬間を曲中で使いまわす事も可能な訳で、これはビートルズやドナルド・フェイゲンが開拓した録音芸術の到達点でもありますから、アイドルソングにおいては「ベストテイクを切り貼りして音源を完成させる」事こそが、そのアイドルの魅力と儚さを永遠に記録するための最高の方法だと思っています。僕ですら番組が事前収録の時は、「ここ噛んじゃったからフレーズごとカットしてください!」とか指示してるんですよ~。
放送はここまで。BGMでかかった曲とVINIの新曲も紹介しましょう。
DAISY DAISY 「แฟนที่ไม่รู้ใจ (Don’t Worry, Be My Boy)」
特集スタート時にBGMに使った曲がこちら。タイでは最近自国のポップスを「T-POP」と呼ぶようになりました。J-POP、K-POPの影響からの独立を意識したものだと思いますが、加えてタイ語特有の「声調」をルークトゥンまでいかない、ほどほどな感じでメロディーやラップパートに取り入れたタイらしい楽曲も増えています。この曲はそんなタイらしいメロディー(特にMusic Video 2:50からの大サビ)とK-POP調のトラックが合体したダンスチューンです。
タイの日本式アイドルの衣装ってフリル付きのフレアースカートや何段も切替の入ったティアードスカートが多くて、可愛らしいファッションが日本のアイドルを象徴するアイコンになってると思うんですが、Music Videoではそんな日本のアイドル的な衣装とK-POP的なボディ・コンシャス衣装が目まぐるしく入れ替わって、ここでも「なんでも混ぜちゃう」タイらしさを感じる事ができます。メンバーの顔面偏差値が全員高いのもポイントなのでぜひYouTubeで見てください。
Cyndi Seui「Up To The Beatz」
山麓園太郎のプロフィール紹介でのBGM。僕が選曲したシンディ・スイのベスト盤の1曲目を飾るナンバーです。できればCDで聴いてね!(笑)
最後に元FEVERのBeamとPlyが参加してる生演奏クラブミュージックバンドVINIが放送の翌日に新曲をリリースしてるのでご紹介します。
VINI「Nocturnal」
なんだか80年代の匂いもする(ユーリズミックスとかね)アンニュイ・ミスティックな曲でたまりませんな。3人だったら経費的に日本に呼ぶのもハードル低そうだ、とか妄想しちゃいます。
いかがでしたか?聴いたことないジャンルの曲とかタイポップスって「気になってるけど入るのにちょっと勇気がいる飲食店」みたいなものだと思います。ラジオやサブスクで偶然耳にするのは「前を通りがかったら美味しそうな匂いがしてる」状態で、僕はそのお店の入口からよく見える席で「美味しい!あー美味しい!」って言いながらもりもり食べてる客です(笑)。
「ちょっと・・・入ってみようかなぁ・・・」と思ってもらえるような食べ方をこれからも追及してゆくつもりですので、今年はぜひタイポップスの世界に気軽に触れてみてください!
関連リンク
AKIRA KURØなどタイのアイドルに詳しいKanonさんのYouTubeチャンネル。ドルオタを自認し、しかもタイ語が話せる彼女こそタイのアイドルを紹介するには適任だと思ってますよ。
当日の放送にかなり近い線で聴けるプレイリストはこちらです!
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