日本とタイそれぞれのT-POPへの期待度(2)タイ大使館でSerious Baconと話す

タイ音楽

山麓 園太郎です。サワディーカップ!

前回の僕の記事では日本がT-POPを含めたタイのカルチャーに寄せる期待について書きました。
では、タイ側は日本の音楽マーケットをどう見ているんでしょう?

それを直接タイの音楽レーベルに訊く機会がありました。場所はタイ大使館です。

タイ大使館にて

タイフェスティバル東京2024を各種メディアにPRするイベントに、僕はインフルエンサー枠で呼ばれましたが、直前になって出演アーティストへのインタビューも頼まれました。急遽ひと組、大使館に来てイベントのために歌うのはSerious Bacon

彼らは2020年にデビューしたポップ・デュオ。大学の音楽サークルで歌っていたCakeさんが、後輩として入部して来たMuangくんの才能に感嘆し、熱烈にスカウトして結成。とにかくCakeさんとMuangくん2人のハーモニーが聴いてて心地良いんです。

僕はデビューから活動を追ってるから「会えて嬉しい~!」というミーハー気分ですが、大使館に集まるメディアの皆さんは殆ど彼らの事を知りません。浮かれてないでSerious BaconのPRもしなきゃね。そのために書き上げた原稿を持って大使館へ向かいました。あれ?

「Serious Bacon ?!」なんと大使館の門の前で2人とバッタリ

「僕、今日のインタビュアーです。よろしく!」と挨拶。Muangくんがギター持ってないから今日はカラオケで歌うのかな。

大使館の立派な応接室で打合せの後、メディアの皆さんが集まるホールへ。

Serious Baconの2人と僕、そして所属レーベルMuzik Moveのジェーンさん

Serious Baconが歌を披露。バックはカラオケで、Muangくん手元にギター無くて緊張しないかな?と思ったら新曲「Love Ads」はTikTok対応で振付があるのでした。

2人の息はピッタリ。聴いててうっとりするハーモニー

今回のタイフェスティバル東京は実行委員会形式。日本企業が主催者となり、大使館はそれをサポートする立場です。壇上にはウィッチュ・ウェチャーチーワ次期大使、エアアジア・ジャパンなどスポンサーの皆さん、そしてSerious Baconの2人が並びました。

「取締役社長」などそうそうたる肩書きの壇上の皆さんと同じようにスーツを着ていても、僕の肩書きは「T-POP探検家」です。怪しすぎる。しかし大使館からの依頼ですから壇上に上がりますよ。

「トークイベント」としてSerious Baconや所属レーベルや大使館の参事官の方に僕が質問をするコーナーです。まず彼らの紹介から始めました。

山麓:Serious Bacon=「深刻な(あるいは「本気の」)ベーコン」という名前は、関連の無い言葉の組み合わせで面白いと思いましたが、CakeさんもMuangさんも牛肉が大好物だと聞いています。でもベーコンは豚ですよね?「Serious Shabu Shabu」や「Serious beef steak」じゃなく、なぜベーコンになったんですか?

会場からクスクス笑いが起こる中、返ってきた答えは「バンド名を決める時に友達から2つの言葉の組み合わせにしたら?とアドバイスを受けて。食べ物の名前は受けが良いしベーコンという響きも良かった」といった感じでしたが、Muangくんがポロっと「バンド名の候補にはDying Wagyuというのもありました。ロックっぽ過ぎると思いやめましたが・・・」と発言した時には会場中が爆笑。
「死んだ和牛」って!ベーコンに落ち着いて逆に良かったよ!

山麓:・・・日本で和牛食べますか?(笑)

Cake:はい。たくさん(笑)

山麓:タイではデパートなどで無料ライブがよく開催されていますね。Tilly Birdsなどの人気バンドを無料で観られる事にも驚きますが、通りすがりの人が立ち止まって、ヒット曲に合わせて歌っている事にも驚きます。タイでは音楽がエンターテインメントとして強いパワーを持っているのを感じます。タイの人たちは、どこで、どうやってヒット曲を聴いて覚えるんですか?

Cake : カフェやスーパーマーケットでヒット曲はいつもかかっているし、レストランやバーでもバンドが生演奏で洋楽やT-POPをカバーするんです。だから耳に入ってくる機会は多いです。

なるほど!
ここでポイントなのは「タイのスーパーマーケットではヒット曲は原曲が流れてる」という所ですね。そう、日本でおなじみの、お買い得感の演出としてわざとチープに仕上げられた打ち込みBGM版ではなくて、いつだって原曲がかかってます。これなら確かに歌詞も同時に覚えますよね。

スーパーマーケット「Big C」。天井のスピーカーから流れるのは流行のT-POP

山麓:おふたりは普段はT-POPやK-POPを聴くことが多いと思いますが、J-POPで注目しているアーティストはいますか?

これにはCakeさんが「SpotifyでJ-POPの最新ヒットのプレイリストをチェックしています」と答えました。山下達郎さんと同じですね。「何が今流行っているのか、好き嫌いに関係なく知っておかないと」っていう事です。もちろん藤井風やimase、YOASOBIなど注目している人はいるそうです。

一方Muangくんの答えは集まったメディアの皆さんが「ほぉ」と食いつくものでした。
Muang : 「僕はもともと日本のロックが好きで。X JAPANL’Arc〜en〜Cielを聴いていました。今ならONE OK ROCKとか。それからCasiopeaT-SQUAREにも影響を受けています」
取材に集まった人たちの多くが知っている、あるいはリアルタイムで聴いてきたバンドの名前が、ロックだけでなくジャズ・フュージョンからも上がった事に皆さん驚いていました。Cakeさんが感嘆した彼の作編曲のセンスにはこういうバックグラウンドがあったんですね。この答えを受けてか、いくつか次回来日時の取材予定が増えたらしいですから良かったです!

続いて所属レーベルMuzik Moveのジェーンさんにも質問しました。「タイから見て、この国の音楽マーケットには勢いがある、と感じる国はどこでしょう? もし日本進出するとして、何かハードルになっている事があれば教えてください。」というものでしたが、これに対してジェーンさんは「注目しているのは韓国と日本ですが、韓国の音楽マーケットは余りに完成され過ぎていて入り込む余地がありません。そこで、積極的に日本に自分たちの音楽を紹介したいと思っているけれど、やはり言葉の壁が大きいと感じています」と答えました。

これについては僕は思う所があり、通訳を介してジェーンさんにお願いしました。

「僕はタイ語ができませんが、T-POPを好きになった理由はタイ語の響きそのものが心地よかったからなんです。タイ語のままでも日本人にアピールできます。ですから、無理に日本語versionをリリースするよりも、例えばYouTubeで歌詞対訳の字幕が・・・機械翻訳ではなく、歌手のパーソナリティまで表現できる翻訳者による最適な字幕や、アーティストの詳細なプロフィールが必ず表示されるようになると良いと思います。それがそのアーティストに共感するきっかけになるんです」と。

僕はレコードからCDへの移り変わりを体験した世代です。当時お小遣いを貯めては45回転のシングル盤を買っていたんですが、シングル盤ジャケットの多くはスペースに限りがあり、英語の歌詞は載っていても日本語の対訳は無いとか、載っててもA面曲だけという事が多かったんです。

サブスクには無い、この情報量

例えばこれはマドンナ1985年のヒット曲「Crazy For You」のシングル盤ですが、ジャケットはマドンナの写真を使った1枚のペラ紙。裏面にはこうしてキャッチコピーや曲解説、アルバムの宣伝、英語歌詞と中川五郎さん(シンガーソングライター/小説家/翻訳家)による対訳が付いている一方、サミー・ヘイガーのB面曲は歌詞すら載っていません。

当時洋楽の歌詞対訳を請け負っていたのは詩人や作家が多く、彼らの紡ぐ言葉はまるで歌手本人の口から出たかのようで、しっかり物語を感じさせてくれるものでした。そして、歌詞は載ってなくても、その声やサウンドからB面のサミー・ヘイガーの魅力はちゃんと伝わりました。

だからタイらしさを捨ててまで日本語で歌う必要はない、と僕は思っています。日本語をあてはめた結果、元の歌詞に込めた想いが薄まったり、単語が不自然に次の小節にまたがったりする違和感で感情移入が妨げられる日本語versionはT-POPに限らず数多くあります。ゲシュタルト乙女(台湾のバンド)並みの自然な日本語じゃないと、結局ファンサービスのボーナストラックで終わってしまうので、歌は普段通りでステージMCだけちょっと日本語、くらいの塩梅がいいんじゃないかなー、と来日する皆さんにはお願いしたいです!

もちろん「こういうのは良いなぁ」と感じる日本語versionもあります。Ink Waruntornの場合は本人がとにかく日本好きで、日本語の響きが可愛い!どうしても日本語で歌いたい!と熱望して本人主導で実現したケース。こういう熱量を感じるものはやっぱり強いですよね。

(追記)その後Serious Baconの日本盤EP「DINNER IN JAPAN」の発売が決まり、収録の日本語versionはどうなってるかな?とドキドキしながらチェックしたところ、日本人でタイ在住のシンガーソングライター山口瑠璃子さんらが関わってくださっていて、とても自然な日本語歌詞になっていました。Serious Baconの世代感までちゃんと言葉遣いに出てる歌詞で、良かったです!

タイ大使館の若い参事官の方からもこんな話が聞けました。

タイ大使館の若い世代のスタッフは、一見大使館で働いてるようには見えない、それこそCat Expoに観客で来てそうな人たちなんですが、彼らが提案する企画に上司が「いいですよ、やってみなさい」とGOサインを出して見守る空気があるんですって。サバーイでサヌックならマイペンライ。これお国柄ですよね~。

なのでエンタメ関連のイベントも実現しやすい。タイドラマの俳優さんのイベントが日本でこれだけ盛んになったのは単にコロナ禍が明けたからじゃなく、舞台裏で大使館の各種サポートがあったからです。今年はタイの映画を日本に紹介するための取り組みをしているそうです。

商習慣の違いなどまだまだ課題はあるけど、ここまでエンタメに乗り気の大使館は珍しいですよ。普通、大使館って「ビザの発給」とか「海外でパスポートを紛失」みたいな時しかお世話にならない場所だと思うでしょ。実際はもっとフレンドリーなのがタイ大使館。カフェを貸し切ってファンベースで開催するようなイベントであっても、もし何か相談事があるなら問い合わせてみてもいいと思いますよ。「本人を呼びたいんですけどどうしたらいいですか」みたいな。

はなから無理だなんて思っちゃダメ。妄想力は大事。僕はそれでタイフェス名古屋に個人でSTAMP呼んだんですよ!

トークイベントの最後に、Serious Baconにも伝えたい事があってこう締めました。

2人にとっては初の海外公演ですからね。日本をスタートに、これからアジア各国や世界に羽ばたいていってください!

そしてタイフェスティバル東京2024に行く予定の皆さん!ぜひSerious Baconの新曲「Love Ads」のサビの振付を覚えて、会場で一緒に踊ってください!

イベント後はティータイム。集まったメディアの皆さんがお茶とお菓子を楽しみながら名刺交換して交流。メディア同士のコラボで、新しいプロモーションのヒントが生まれるといいなぁ。僕も色んな方にご挨拶して、お菓子はテイクアウトしてホテルで待機してた社長と半分ずつ分けました!
じゃ、タイ好きの皆さん、タイフェス東京会場でお会いしましょう!

コメント

タイトルとURLをコピーしました