「HIDE YOU feat.chelmico」を発表したSTAMPに2度目のインタビュー

タイ音楽

山麓園太郎です。サワディーカップ!

2021年2月17日にリリースされたSTAMPの日本語歌唱による新曲「HIDE YOU feat.chelmico」について僕が執筆したSTAMPのインタビュー記事が、KKBOXさんで公開されました!

タイのポップスターSTAMPとchelmicoとの深いイイ関係 - KKBOX
STAMPはエイベックスと契約して日本にも活動の場を広げているタイのポップ・スターだ。そんなSTAMPの日本のアーティストとのコラボ作品が今とても面白い。昨年9月にリリースされたSKY-HIとのコラボシングル「ジェイルハウス feat.SK...

追って解説していきますので、まずはリンクから記事をお読みくださいね~。

エイベックスと契約してからJ-POPカバー動画をYouTubeで発表したり、日本のアーティストとのコラボ曲を次々とリリースしているSTAMP。コロナでタイと日本を行き来できなくても音楽制作は今やネット上のデータのやりとりで完成しますから、特に「コラボ」という企画についてはアーティスト同士の相性とコラボに賭ける熱量が重要なんですが、STAMPのコラボ企画はどれも胸熱なものばかりで。

1月の下旬でしたか、突然エイベックスさんから連絡を頂きましてね。僕はただのタイポップス探検家ですから、専門の音楽ライターさんに依頼した方がいいんじゃ・・・と最初断りかけたんですが、STAMPが日本ではまだインディーズだった時代、初の日本盤アルバム「STH」を出した頃ですね、当時から彼と交流がある僕に声がかかったという事は「STAMP、ここまでの道のり」みたいなニュアンスの記事が求められているのかな?と思いまして。

そしてKKBOXさんからのオファーが「STAMPが影響を受けたジャパンカルチャーを軸に、コラボの背景について深掘りし、STAMPをまだ知らない人にその魅力を紹介する記事にしたい」だという話を聞けば、「タイポップス広まれ!アジアの音楽をもっと日本に!」を社訓とするうちの事務所としては(笑)もうお受けするしかない。

そこでchelmicoさんのYouTubeチャンネルへ行ってみると、あぁ!「映像研には手を出すな!」のOPのあの曲!そして爽健美茶のあのラップか!と。メロディーとラップがシームレスに繋がる所が気持ち良くていきなり大好きになりました。タイでMusic Videoも撮ってるし!

タイロケのMusic Video「Highlight」

そんな訳で僕にとっては2度目になるSTAMPへのインタビュー。前回は中学英語を駆使したメールでのものでしたが今回はちゃんと通訳さんもついています。Zoom会議を使ってのインタビューは2月の頭でした。

コラボに賭けるSTAMPの本気

さて、記事ではSKY-HIとのコラボ「ジェイルハウス」の際にオリジナルのタイ版とは大きくバックトラックを作り変えた話題が出てきますが、今回の新曲「HIDE YOU」は更に凄い事になっていました。タイ版と日本版を聴き比べてもらえばすぐ分かりますね。

タイ版「HIDE YOU」

日本版「HIDE YOU」

イントロからサビ前はキーもメロディーも全く違う上、サビのコード進行がより複雑に。しかも同じメロディーでもサビの前半と後半ではコードが変えてあります。STAMPはchelmicoとのコラボにあたり曲を書き換え音源も新録音したんです。

「日本の曲はトラックの置き方や音のミックスが全然違う」という話題についても簡単に解説しましょう。

現代の音楽制作の基本的なスタイルが確立したのはビートルズの時代、1960年代です。1本の録音テープを「トラック」と呼ばれる単位で区切って、トラック毎に同時に別々の音を録音できる「マルチトラック・レコーダー」がレコーディングスタジオに置かれるようになりました。ビートルズの時代の主流は4トラック。例えば演奏に3トラック、ヴォーカルに1トラック使えば後でヴォーカリストが「ゴメン!今の無し!」となっても、演奏はそのままで歌だけ録りなおしがきくんですね。トラック数は時代と共に8、16、24、48・・・と増えていきましたが、デジタル時代が到来するとこれがコンピューター上で動くようになります。「録音テープ」という物理的なメディアも使いませんから、現代ではトラック数は無限です。1960年代のレコーディングスタジオにあった数々の物・・・マルチトラックレコーダーを始めとして、ミキサー、電気楽器用のアンプ、音響効果を加える機材類、こういった物が全てデジタルでシミュレート出来るようになり、DAW(Digital Audio Workstation)として自宅のリビングで音楽が作れるようになりました。

(DAWソフトの画面。画像は島村楽器オンラインストアより)

日本ではこうやってDAWで作業する時に見やすく、分かりやすくって事で例えば「サビで出てくる楽器類は画面上で順番に配置しよう」とかトラックを管理して録音するけれど、タイではそうじゃないんですね。

もうひとつ、ミックスの違いについては近田春夫さんの「考えるヒット」のこの記事をぜひ。

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そしてSKY-HIに続いてchelmicoとコラボした背景には、この2~3年タイでラップがブームになっている事も大きいんです。STAMPはタイでもYOUNGOHM、TWOPEEらラッパーとのコラボ曲を出していますし、今度は「日本のラップも凄いよ!」とタイのファンに紹介してくれてるんですね。

アイドルグループのFEVERもラップを大胆に取り入れています

STAMPとJ-ROCK、そしてアイドル

J-ROCKからの影響についてSTAMPから直接話を聞けたのはとても興味深かったです。特にラルク(L’Arc-en-Ciel)にこれほどハートを掴まれていたとは。もちろん彼がX JAPANやLUNA SEAのファンである事は知っていましたが、中でもラルクは特別だったようです。ラルクは2012年にワールドツアーでバンコク公演も行なっていますが、もちろん見に行ったそうです。この時STAMPは既に大スターでしたが、高校の頃憧れだったバンドのライブを生で見られて本当に嬉しかったと話していました。

乃木坂46の話題に入る前には
山麓:「僕がアイドルについて話すといつも長くなるから今日は手短にするよ」
STAMP:「ははは、OK!」というやりとりがありましたが結局長くなりました(笑)。しかし長くなったのは「誰が可愛い」といったファン目線の話ではなく真面目な、歌詞も含めた楽曲面からの話が多かったからでした。ここにも彼の音楽プロデューサーとしての一面が見えた気がしました。

とはいえ、タイフェスに呼んだ時に「そんなに好きならさ、いつか楽曲提供とかしてもいいんじゃない?」と言ったら「ノー。見たり握手したりして応援するだけがいい。ファンとして接していたい」と答えたSTAMP。「大好き過ぎるから、仕事にしたくない」というのはありますよね!

日本人の繊細さとタイ人の信仰心の深さ

記事中には『現代のポップミュージックに使われる楽器やDAWソフトは世界共通でも、曲や演奏にはそれぞれの国のカルチャーや日常の風景、国民性が必ず表れます。STAMPさんにとって、日本の音楽を特別なものにしている「ジャパンカルチャー」や「日本人の国民性」はどんな風に見えているのでしょう?』という質問があります。

記事では省略しましたが、この質問はこんな前振りを挟んでいました。
『STAMPさんの曲「The Devil」の歌詞は、ラブソングであると同時に仏教の108の煩悩をテーマに書かれています。また「Bangkok Summer」を聴けば、僕達日本人はタイの凄い暑さを想像します。』

この質問は僕にとって、2017年のSTAMPへの最初のインタビューがあったからこそ浮かんだものでした。歌詞の本当の解釈をSTAMP本人から聞いたのです。

「小悪魔系のカノジョ」の歌と思わせて実は「ブッダが悟りを開くための瞑想中に、美しい女性の姿で現れて誘惑する悪魔」の歌。比較的カジュアルに多宗教を生活に受け入れて暮らす日本人と違い、タイは仏教に関連する祝日があり、その日はお酒の販売が禁止されているほど敬虔な上座部仏教の国です。聴いた印象は洋楽っぽいポップスでも、この曲はタイ人のSTAMPにしか書けなかった曲なんです。

そして「歩道の舗装やビルのタイルの仕上げ」に日本人の繊細さを感じるというのは、彼が大学で建築学科だったのを差し引いても頷ける話です。バンコクの街を歩いてるといつも凸凹の歩道に足を取られて転びそうになったり、舗装のタイルが実は下にたっぷりの雨水を含んでいて踏んだ途端に「ブシャーッ!」と反対側の足を狙ってくるからです。マハナコンなんて日本にはなかなか無い未来的なデザインのビルなのに足元の道路は昭和30年代。しかしそんなタイが僕は恋しくて仕方ありません。

今回のchelmicoとのコラボも素晴らしかったですが、STAMPがこれからコラボしたい日本のアーティストの名を挙げてくれた時には、「それが実現する時には、お互いがスタジオで実際に顔を合わせての共同作業で録音が進んだら素敵だろうな」と思いました。

STAMPの曲「The Devil」の歌詞では、暗闇は「行き止まり」ではなく「くぐり抜けるもの」として書かれています。

色々な事が出来ない今の世界の状況を嘆くのではなく、くぐり抜けた先に待っているものを楽しみにして過ごしていけたらいいですね。

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