アテンドを考える - タイと日本のラジオDJ –

コラム

山麓園太郎です。サワディーカップ!

「首を長くして待つ」っていう言葉がありますよね。実は僕、本当に首が長いんです。

肩こり解消に通っていた整体で首周りを揉まれながら「山麓さんは首の骨が人より1個多いですね」と言われたんです。そんなことあるの?!

ひじや指が外側に反る人反らない人がいるでしょ?遺伝子の関係らしいですけど、同様に骨の数が違うこともあるんだそうです。

骨1個ぶん首が高い位置にあるから重心が悪くて、肩こりを誘発したりちょっとした動きでひねってしまい「あいたた!」になりやすいんです、って言われると確かに思い当たる。

肩こりは嫌なんだけど、考えようによっては人より1個多くてお得な首だとも言えるわけです。

とポジティブに考えて「構成パーツが1個多い僕の人体偉い!」なーんて密かに自画自賛しながら暮らしていたら今度は虫歯の治療で行った歯医者で

「山麓さんは下の前歯が人より1本少ないですね」って言われて結局「プラマイゼロかよ!」というオチがついたんですけど。

首を長くして待っていたのはもちろんタイ渡航です。コロナ禍でタイに行けなくなって2年半。その間もタイポップス探検家として活動できたのは声をかけてくださるメディアや大使館の皆さんのおかげでしたが、現地成分の補給が急務なのも確かでした。夏にはタイ政府が入国条件を緩め、秋には日本も帰国時の隔離がなくなったりして断然旅行がしやすくなった、と感じました。

そこで「インディーズの祭典」と呼ばれる野外音楽フェス「Cat Expo 9(2022年11月12-13日)」に参加することにしたんです。一方このフェスの主催者であるラジオ局Cat Radioにも一人、首を長くしてる人がいました。局の看板DJ、Sonnyです。

※画像は彼のTwitterから

日本の和モノDJも驚くほどのレアな昭和グルーヴを番組でかけまくるだけでなく、「UK」、「90’s」、どんなテーマであってもリスナーに驚きと発見を与える選曲の妙。そんな彼がネタを仕入れているのが日本のレコードショップなのでした。彼にとっても長い2年半。

なので夏頃からずっと「いつ日本に行ける?いつ行く?」と奥さんと相談していたそうです。10月末に夫婦での日本観光も兼ねて久しぶりの来日。Cat Expoではステージ司会も務める彼ですから、Expo直前の強行軍です。

いつも成田か関空便のSonnyがセントレア発着の便で来日したのには理由がありました。夫婦でジブリパークへ行こうと考えていたんです。初めての名古屋。そこで愛知県在住の僕にLINEが来たわけです。「ジブリパークの入場券買ってくれる?」

オープン間もないジブリパークは海外からチケットの購入や発券をする体制がまだ整っていません。一方愛知県民の僕には優先購入DAYもあります。「OKちょっと公式サイトに行ってみるよ」と返事したものの、既に11月入場分のチケットは完売していました。

しかし並行して愛知県美術館で開催される「ジブリパークとジブリ展」のチケットを確保することができました。「エンタロウ、それじゃ名古屋で会おう!チケット代はその時払うから」

さて、Sonnyの名古屋滞在を楽しいものにするにはどうしたらいいかな。まずはレコード屋でしょ(笑)

さっそく名古屋市内のレコードショップのリストを送り、一緒に回ることになりました。

月曜日の午後、待ち合わせ場所に現れたSonny夫妻にジブリパーク展のチケットを渡すと、Sonnyはバッグから1冊の本を取り出しました。
「これは君にね」

わ!これは彼が書いたディスクガイド本!初版が一瞬で完売した噂の1冊!ありがとー!

「Exotica/Mellow/Rhythm/Sensual/Street/Tropical/Wave」の7章に分けて「現代の古典」として評価されるべき100枚を紹介。ドナルド・フェイゲン「ナイトフライ」やステレオラブ「ミス・モジュラー」、シャーデーやペットショップ・ボーイズといったチョイスの中、日本からは山下達郎「Circus Town」などが選ばれていますが、細川たかし「望郷」やテレサ野田「トロピカル・ラブ」も飛び出す上に、紹介こそされてないけど表紙と章見出しに写ってるのが田中律子「I think so!」だったりと、みぞおちが震える内容が素晴らしいです!

僕もコラムを寄稿した「アジア都市音楽ディスクガイド」(DU BOOKS)をプレゼント。早速フィリピンのシティポップのジャケ写を指さして「これ持ってるよ」とワイド耳っぷりをいかんなく発揮していました。

当然Cat Expoの話題も出ます。「誰を観るの?」と訊かれたので「久しぶりだから色々なミュージシャンに会いたいけど、STAMPとLiptaとmindfreakkkとScrubbとBillkinは絶対かな」と答えると「うん。Billkinは良いよね」とSonny。「そうだよね!彼は俳優だけどシティポップ好きで、シンガーとしても素晴らしいんだ」と僕。

さて、レコードショップ巡りを始めると、なんと奥さんもついてきます。そしてSonnyがレコードを見ている間、座って待っているのです。

レコード屋に入ったら最後、2時間は余裕で過ごしてしまうので絶対に自分の奥さんとはレコード屋に行かない僕は心配でしたが、Sonnyのレコード掘りの臭覚は凄いものでした。ほんの15分程の間に5枚のドーナツ盤をピックアップして試聴からお買い上げまで済ませてしまうのです。これなら奥さんも待てるよなぁ・・・。

バナナレコード本店にて。ここは試聴不可なのでSonnyはあまり買い物しませんでしたが、ずっと探してた1枚が壁にかかってた、というラッキーもあったようです

この日はここまで。夜は「世界の山ちゃん」に行きたい、というので「おぉ。ガイヤーン・ナゴヤ・スタイルだね。きっと気に入るよ」(「ガイヤーン」はタイのポピュラーな焼き鳥メニュー)と答えて後でホテル最寄りの店舗をグーグルマップで教えてあげることにしてお別れです。また明日!

翌日僕はオアシス21地下のツーリスト・インフォメーション・センターへ向かいました。名古屋周辺の観光地や催し物のパンフレット(英語かタイ語表記のもの)をとにかく全部かき集めて奥さんにあげるためです。その足でディスクユニオン名古屋店もチェック。こりゃSonnyも見たいだろうと確信して、彼らが泊まるホテルへ。

ディスクユニオン、下見のつもりがマジ買い物(笑)

Sonnyにぜひ会わせたい人が名古屋にいました。浄心でタイカレーのお店「ヤンガオ」を営むMOOLAさんです。

MOOLAさんはタイに住んでいた頃DJ活動を通じてSonnyと親友になりました。でもMOOLAさんがタイを離れて以来再会を果たせずにいたんです。

SNSで繋がっているから疎遠になった感じがしないけど、実際に会ったのって何年前だっけ?っていう友人が皆さんにも多いんじゃないですか?僕にも沢山います。SonnyとMOOLAさんもそうだったんですよ。こりゃセッティングするしかないでしょ!

さらにもう一人。名古屋で生まれたガールズ・ダンス&ボーカルユニット、FAREWELL, MY L.u.vのプロデューサー小林さん(以下小林P)。

僕は彼女たちがFEVER(タイの楽曲派アイドル。2021年解散)のダンスカバーをネットに上げてるのを見つけて興味を持ちCDを買ってみたら、これがやはり楽曲派の良曲揃いですっかり気に入っちゃって。

で、Twitter繋がりでご縁ができたもんですから「STELLA」っていう曲をリリースする時に「タイのラジオ局で世界最速オンエア(ワールド・プレミア)」っていうプランが小林Pさんたちを交えて盛り上がって、僕はSonnyとチームを繋げる役を務めたんです。SonnyもノリノリでOKでしたがそれだけに留まらず、その告知のためにラッピング広告のトゥクトゥクを何台もバンコク市内に走らせる、という突き抜けたプランまで実現。タイのアイドルファンに彼女たちの曲が届く手助けになったでしょう。

※画像はTUK UPのTwitterから

このワールド・プレミアの模様はCat Radioのアーカイブで今も聴くことができますが、Sonnyの熱量は凄まじいものでした。3時間にわたり日本の曲だけでプレイリストを組んだんです。しかも日本人の僕たちが「ここでその曲出してくるか~!」と唸るほどディープでドープな。その日かかった全曲のタイトルがこちら。

2022.03.18
01. Mitsuko Baisho – 今夜はいい気分
02. Kimiko Kasai with Kosuke Mine Quartet – Alone Together
03. Hayato Kanbayashi – You!!
04. Mari Iijima – Marin
05. Misato Watanabe – My Revolution 
06. Mariko Uranishi – Stardust Eyes  
07. Tomi Jun – Yellow Tissue 
08. Round Table featuring Nino – Message
09. ICE – Sweetness
10. FAREWELL, MY L.u.v – Good Day
11. FAREWELL, MY L.u.v – Gloomy Girl
# World Premiere
12. FAREWELL, MY L.u.v. – Stella
13. Milk – ‘Thank You’ For You
14. Namirin – Renai Circulation
15. Miki Matsubara – Hello Today
16. Rajie featuring Yoshitaka Minami – The Tokyo Taste
17. Yuki Okazaki – Ame No Yuwalu
18. Yasuhiro Kido – Mr Music
19. Yasuyuki Okamura – Kahlua Milk
20. Ritsuko Okazaki – Let’s Stay Together, Itsumo
21. Hinomaru Factory – Modern Romance
22. Naruyoshi Kikuchi – 色悪
23. Young Fresh & Megumi Aiuchi – とんちんかんちん一休さん
24. Teshima Aoi – 朝ごはんの歌
25. Tsuchiya Hiromi – Someday
26. Miho Yonemitsu – Moonlit Mercy
27. Jingle Jam – A Picture Of Paradise
28. Akira Ishikawa & Count Buffaloes – Tanchame
29. Rinken Band – ふなやれ
30. The Peanuts – ちいさなきさてん
31. Junko Sakurada – My Dear
32. Ketsumeshi – Train
33. The Cherries – ? Question 
34. Hiroko Moriguchi – Be Free 
35. Sonoko Kawai – 哀愁のカルナバル
36. Nadja – Wishful Thinking 
37. Hitomi ‘Penny’ Tohyama – 銀河の片隅で
38. Jackie Chan – Maria My Love
39. Anri – 最後のサーフホリデー
40. Maiko Akimoto – Fascination 
41. AB’s – At The End Of The Century

รายการแมวนอก Friday 18 March 2022 : FAREWELL, MY L.u.v world premiere

もちろんこの一連の打ち合わせはコロナ禍の最中のリモートでしたから直接の顔合わせもまだなのでした。

こうして「ヤンガオ」をSonny夫妻と僕、そして小林Pで訪れました。

本当に嬉しそうな2人を見ているだけでこちらも楽しかったですが、奥さんが「本当にタイの食堂にいるみたい」と評したヤンガオの店内に貼られたタイ映画のポスターを見てSonnyが宣伝文句を翻訳してくれたり

僕がディスクユニオンで買ってきた小原ロコ「恋のキューティ・ベル」のドーナツ盤を見て「かけていい?」とお店のレコードプレイヤーでかけ始めてからは

MOOLAさん私物のタイのレコード(XYZ)をかけて英語とタイ語と日本語が飛び交いながら音楽の話が続いたのでした。奥さんも相当な音楽好きでした!

「アジア都市音楽ディスクガイド」にも選ばれている1987年のアルバム

僕と小林Pも初対面でしたが、日本とタイのアイドルシーンを繋げる方法や、新曲をリリースする際の新しいパッケージのアイデアについて意見交換ができて良かったです。

リモートワークでのミーティングでは画面に映ってるもの以外の視覚情報がないので、話を膨らませるのが難しい時があります。でもこの日のヤンガオには色々なものがありました。MOOLAさんがデザインしたグッズやTシャツ、タイ映画のポスター、僕が持ち込んだレコード、そしてテーブルに置かれたタイカレーとタイビール。そこにいる皆が振り向いたり見上げたりしなければ見えない実物の手触りや匂いから自然に話題が広がり、今まで知らなかったSonnyやMOOLAさんのことも見えてきました。やっぱり直接会うのってとても大事なんです。こうしてヤンガオでの2時間、そして僕のアテンドは終わりました。

「アテンド」と言うとまるで旅行会社が組んだツアーみたいに1時間刻みであちこち連れ回すイメージを持つ方もいるかと思いますけど、やっぱり旅は自分で探検してこそなので、タイから来た誰かをアテンドする時にはとにかく事前に情報を流して選択肢を増やしておいて、特に行きたい所だけを案内することにしています。自由時間があれば自分たちで都合付けて行きますからね(笑)。

奥さんに渡したパンフレットを見てオアシス21(実はタイからの観光客には写真映えするスポットとして人気)に興味を持ってたみたいですが、「ジブリパークとジブリ展」の会場である愛知県美術館から近いからきっと美術館見た後に2人でディスクユニオンとオアシス21、両方行って楽しんだでしょうね。実際滞在中は名古屋でひつまぶしも食べたし日帰りで飛騨にも行ったらしいですよ。

夫婦で歩きながらいっぱい話して、同じ景色を見て、2人で相談してディナーのお店を決める。そういうのが良いんです。僕もタイに行く時は同じように夫婦でいっぱい探検して、そんな中から「洋服を買うならここ」「おみやげを買うならここ」みたいなお店をたくさん増やしてきたのですから。

そして旅行ガイドやグーグル検索からは伝わりにくい情報、例えば「どちらの地下鉄で行っても乗換1回だけどこっちのルートの乗換は階段が多くて大変」とか「観光地はどうでもいいからブックオフの場所教えて。古いJ-POPのCD買いまくりたいんだ」なんて言われる場合とか(笑)、そういうネタをタイムリーに投げられることがアテンドなんじゃないか、っていう気がしています。その上で人に優しくできたならそれが本当の意味での「おもてなし」になるんでしょう。

そして僕の次回の更新はたぶんCat Expo 9のレポートです!

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