映画「プアン/友だちと呼ばせて」レビュー

コラム

山麓園太郎です。サワディーカップ。

珍しく映画について書こうと思うんですが、前回ロードショーで映画館に行ったのはいつだったか、と記憶をたどるとこれがまさに「バッド・ジーニアス」でした。2018年。その前が「エイト・デイズ・ア・ウィーク」です。2016年。間が空き過ぎだ!映画はDVDで買って観る事の方が多いからですが、今回の映画「プアン/友だちと呼ばせて」はもうスクリーンで3回観ています。間が詰まり過ぎだよ!

最初は映画配給会社さんからのお誘いでした。「プアン」のエンディングテーマはSTAMPが歌っていますから、夏の日本公開に向けてプロモーション案件を検討していた配給会社さんは5月の「アトロク」にSTAMPが出演した時ラジオで聴いていてそのまま僕の出演も聴いたそうです。

てっきり僕を東京在住だと思って試写会に招待したら日帰りで愛知県からやって来ると知って後日謝られましたが(笑)いえいえ、僕は趣味でやってるんです。ですからこれからもどうぞ距離に関係なくお誘いくださいと申し上げて配給会社の試写室でありがたく拝見したらボロボロ泣くはめになりました。開始20分で。

ネタバレはしないように書きますが、余命宣告を受けた青年ウードが元カノに会う旅を追うこの映画、恋愛について僕も含めて世の男性の殆どが持つ困った勘違いが描かれています。「別れた彼女は今でも僕の事を少しだけ気にかけている」っていうやつです。幸運にもそんなケースだったのは最初に会いに行く元カノのアリスだけ。物語が進むにつれて再会はどんどん苦いものになり、映画を観た男性はおそらく誰もが自分の元カノと結びつけて現実を突きつけられたような気分になると思うんですが、旅に同行するボスの言動が少し気分を軽くしてもくれます。

涙を拭きながら試写室を出ると、そこに見知った顔がありました。タイフェスティバル2022の、タイ大使館でのトークイベントでご一緒したジャイテープさんでした。映画版「2gether」の音楽を担当した作曲家であると同時に映像作家でもあります。ご挨拶に行くと「どのシーンが良かったですか?」という話になり僕が「やっぱりアリスとの再会シーンです」と答えるとジャイテープさんは「私はタイ各地の空撮シーンが良かったです。特に最初の、カセットテープから繋がってゆく所が」と言いました。

映画で重要な小道具になっているカセットテープが、カーステレオ内で回るカットからカメラが片方のリールに寄ってゆくとバンコク市内を走る古い車(ウードの父親の形見)のホイールのアップに変わり、更にファランポーンにある「ジュライ・ロータリー」と呼ばれる円形交差点の真上からの空撮に変わる。映像作家でもあるジャイテープさん、やはりこのイメージが見事に次々繋がってゆく手法が気になったようでした。

また、アリスを演じるプローイ・ホーワンは偶然にも僕がTBSラジオ「アトロク」のタイの女性アイドル・クロニクルの回で紹介したProject Hのメンバーでもありました。その事を話すとジャイテープさんは「本国ではどちらかというとコメディやバラエティへの出演が多いので、こういう演技もちゃんと出来るんだと感心しました」と言っていました。

(画像は映画公式サイトから)

さて、そんな訳でちゃんと興行収入に貢献したいと思った僕は地元のユナイテッド・シネマの会員カードを作り、公開初日に奥さんを誘って観に行きました。これが2回目。そして3回目はひとりで、観なおすついでに劇場パンフレットを買いに行きました。試写会でもこのようにパンフレットは頂いたんですが、

劇場では新たに制作された素晴らしいパンフレットが購入できます。

左が劇場で販売されているものですが、試写会で配布されたものと重複する部分はごく一部のテキストだけ。大幅に加筆修正され、中でも新たに加えられたSoi48さんによるツーリストインフォメーション及び映画で流れる楽曲の解説は最高ですので「試写会で観たからいいや」っていう方もぜひもう一度劇場に足を運んでいただいて、パンフレットと共に楽しんで欲しいと思います。僕も観なおす度に新しく気付いた点が多かったです!

映画のタイトルについて僕が感じた事も書くことにします。映画の原題は「One for the Road」といって「最後の一杯」あるいは「帰りがけの一杯」という意味がありますが、日本公開にあたり付けられた「プアン/友だちと呼ばせて」という邦題がタイ語ネイティヴの皆さんや映画ファンの皆さんから実は不評だ、というのは試写会前から耳に入っていました。まぁ確かにドラマなんかで聞く「気にするなよ。僕ら友だちだろ?」みたいなセリフって実際には絶対言わないよなぁ、なんて僕も思ったんですが、映画を観終わって邦題の捉え方が180度変わりました。

この映画ではタイの格差社会もテーマとして根底に流れています。ウードと親友(であるはずの)ボスの間にはこの格差による断絶が隠れていて、ウードのボスに対するコンプレックスは僕たちの想像を遥かに超えた深いものです。そしてボスはどうやらそこに相当鈍感であるらしい。

「友だちと呼ばせて」というタイトルは、ウードがボスに対してずっと心に抱きながら本当の意味では実現できなかった願いであり、ウードは結局その実現を阻む「自分自身の中の強烈なコンプレックス」から物語の最後まで逃れられなかったのではないか、と思うのです。そしてそれは元カノとの恋愛中にも形を変えて時々顔を出しては愛を壊していったのではないか、とも。

映画の後半から浮かび上がってくるこのウードのコンプレックスが、彼を蝕んだ病魔と同じ位の辛さで彼を苦しめたという事を知った後では「One for the Road」という題名(タイ語で「最後の日・・・さよならの前に」という副題がついてるとはいえ)はずいぶん味気ないものに感じてしまいます。もうひとつはこの原題を「最後の一杯」と読める日本人って少ないんじゃ?という点です。僕もまさにそれで、「うーんと・・・これからはひとり、みたいな?」とか思ってました。

なので、タイ語で「プアン」って邦題が付いた事に僕は案外好感を持っています。実際公開後には邦題に関する不満の声は収まっていったそうです。観た多くの方が僕と同じ事を感じたのでしょうか。その位のパワーがあるウードのコンプレックスって凄いな!

そして公開に合わせてエンディングテーマ曲「Nobody Knows」の日本語版も配信されましたが、日本語版にある「今日を生きる 霧が晴れる 悲しみや涙が教えてくれる」という歌詞。これってウードとボスだけでなく、映画の登場人物のそれぞれの人生にも響いてくるんですね。映画を観た後に聴くとしみじみするのでぜひこちらも聴いてみてください。

映画「プアン/友だちと呼ばせて」、良い映画だったので将来DVDで販売される事になるなら絶対自宅観賞用に購入しようと思います!

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