タイフェス名古屋への出演に関する各種交渉は、STAMP本人とLINEを使って行なわれました。タイ本国であれば当然マネージャーを介しての話になるところですが、日本でのバックバンドのさいとうりょうじさんとSTAMPはまさに「マブダチ」と呼べる程の間柄なので、彼等の普段の打ち合わせスタイルとなったのです。
とにかく最初に決めなきゃいけないのはギャラの話です。詳細は伏せますが、STAMP程の大スターになるとタイでは「1曲につき○○万バーツ」とか、「CM目的でのSNS投稿1件につき○万バーツ」(※バーツはタイの通貨単位)と、かなりの金額がかかります。
・・・と知ったのは実はフェス出演後!フェス実行委員会から提示された金額は本国の相場には程遠いものでしたが、STAMPはそれでもOKしてくれました。そしてギャラの大半はバックを務めるさいとうさん達で分けて欲しい、と言います。それでもバックバンドをフルメンバーで呼ぶ事ができません。
結局さいとうさん(ギター)、ベース、ドラムスのトリオ編成ならどうにかバンド側に利益が出そうだ、と話がまとまりました。これでついに正式な契約書を・・・となった時点で僕達が直面したのは
そもそも音楽ビジネスの事、僕達なんにも知らないよね?
という事実。僕はミュージシャンとはいえ、せいぜいライブハウスで演奏してチャージバックを紙じゃないお金で受け取るのが関の山です。そもそも実は僕達の事務所、会社ですらない。
そう、このブログのホームでもある「Studio Mushroom Iron」はその時点ではただの「僕の脳内妄想事務所」だったんです。
僕はかなり初期からmixiをやってたんですが、当時のmixiの日記は最初に写真が3枚貼れるスタイルだったんですね。それで写真3枚をそのままタイトルにした日記を毎回書いてたんです。
「朝カレー・昼カレー・夜カレーうどん」とかね(笑)
ある日自室を片付けて機材を並べた様子がなんだかプライベートスタジオっぽくていい感じだったのと、「ラバー・ソウル」の頃のビートルズみたいにしたくて髪型をマッシュルームにするべく伸ばしてたのと、でも伸びるとうねってきちゃうからコテを買って来た、っていうのを日記にしたんです。それが「スタジオ・マッシュルーム・アイロン」。
「なんだかゴロがいいから、いつかそういう音楽事務所が持てたらいいなぁ」とか思ったんですよ当時の僕。・・・実現しちゃったよ2018年に!
契約を取り交わすにあたっては個人名義はダメです、とのフェス側からの依頼で形式上とはいえ会社を名乗る事になりました。ハンコまで作った。契約書なんて見た事もないからネットでテンプレを拾いました。
それでもなんとかなったんです。自宅で印刷した契約書を大事に抱えて、僕達は2018年2月、初のワンマンライブで来日したSTAMPを再び青山に訪ねました。
階下では既にリハが始まっていますが、STAMPの姿が見えません。僕が階下を覗き込んでいると「Entaro !」の声と共にすぐ横のドアから飛び出してきたのはSTAMPでした。そしていきなりのハグ。これは本当に嬉しかったです。
楽屋で契約書を渡して、フェスに関する説明を始めましたがやはり彼ほどのスターとなると「まぁそこは臨機応変に・・・」という訳にはいきません。彼もビジネスとしてYES/NOははっきり言います。到着空港や到着便の時間、滞在中のいくつかの予定について細かい変更点が出ることになりました。それでも最終的にサインをもらえたのでこれで本当に出演決定です。
僕はほっとして、すっかり安心して、STAMPのワンマンライブを堪能しました。
この後2ヶ月程、僕達はフェス側との各種打ち合わせに奔走する日々を過ごし、大変ながらも徐々に準備が進んでいきました。ついに公式HPでゲスト出演が発表となり、東京/大阪のフェス主催者の皆さんからも驚きの声が上がったと聞きます。「なんで名古屋がSTAMP呼べるの?」と。それまでフェスの観客に過ぎなかったタイポップ好きの一般人が、本人に友情出演みたいな無茶振りをしてOKをもらったなんて、誰も予想しなかったのです。
しかし。
やはり一般人は一般人です。今思い出しても恐ろしいです。
「そういえば、STAMPのビザの話、実行委員の方からまだ何も連絡ないよね?ちょっと遅くない?」と話してから仕事に出かけた僕のスマホに社長からの緊急メッセージが届きます。
「ヤバイ」
フェスまであと1ヶ月なのに、STAMPのビザの準備が何も出来ていない事が判明したのです。
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